慢性血液透析患者におけるL-カルニチンの使用経験

医療法人 清生会 谷口病院 麻酔科1)、泌尿器科2)
上平 敦1)、木内慎一郎2)、三原 聡2)、谷口宗弘1)

Ⅰ はじめに - 研究の背景 -

近年、慢性血液透析患者の下肢の攣り、貧血の改善、心機能の改善に対してL-カルニチンの投与の有効背が指摘されている。L-カルニチンは細胞内のエネルギー産生機関であるミトコンドリアに、エネルギー基質のひとつである長-中鎖脂肪酸の取り込みに必須な物質である。肉類などの食物から主に摂取され、健康ジンの生体内では腎・肝・脳で必須アミノ酸であるリジンとチロシンから合成される。 しかし慢性透析患者においては食事制限、腎臓での合成の欠如、透析による喪失などにより慢性的欠乏状態にある可能性が高いことが報告されている。また透析時のいぇぱりん投与により血中遊離脂肪酸が増加し、透析時の不整脈を誘発している可能性がある。このため特に透析時のL-カルニチンの補充療法は慢性血液透析患者にとって有益であろうと考えられる。しかし本邦においては医薬品としてのL-カルニチンの保険適応はプロピオン酸血症、メチルマロン酸血症に限られているため保険医療の範疇では従来、透析患者への投与が困難であった。しかし最近になり栄養補助食品としてL-カルニチンが国内外から入手可能な状況となったため、慢性血液患者へのL-カルニチンの投与を試みたので報告する。

Ⅱ 対象および方法

医療法人清生会谷口病院、どう附属診療所東伯サテライトで慢性血液透析を受けている患者で、下肢の攣り、透析時不整脈、慢性心不全などがあり、L-カルニチンの薬理作用について文章などで説明して同意の得られた患者を対象とした。患者には一乗に500mgのL-カルニチンを含有する製剤を通信販売等で購入して貰い、原則、透析時、ないし透析日朝に服用することとした。判定時期は投与開始から4ないし8週間後までみ、筋症状については本人からの聞き取りで、心・循環器症状については心電図モニタ所見、ならびに透析周術期のエピソードによって行った。

Ⅲ 結果

全患者121名中14名(男性9名、女性5名)にL-カルニチンが投与された。投与を受けた患者の平均年齢は68.4±9.5歳、平均透析歴は80.2±5.7年であった。このうち下肢の攣り、だるさのため投与開始した患者は8例、症状が改善した患者は内6例(75%)、透析時血圧低下・不整脈などの循環器症状のため投与を開始した者は9例、症状が改善した者は内7例(78%)であった。 下肢の攣りと循環器症状の双方のため投与した症例は3例で、内一例で双方に有効、一例で下肢の攣りが改善、一例は共に無効であった。一例で投与後の下肢の火照りを訴え、一時内服を中止した以外、副作用や投与に伴う検査値の異常を生じた症例は無かった。透析時の不整脈(VPC、Af)に対して投与した4症例では全例で効果を認め、投与を開始したその日から症状が改善し、極めて有用であった。

Ⅳ 考察とまとめ

 透析患者では食事療法によるL-カルニチンの摂取不足、腎不全による合成の障害、透析による喪失によりL-カルニチンが不足するのみならず、腎での選択的なL-カルニチンの再吸収とアシルカルニチンの排泄の障害によりアシルカルニチンは過剰となり、L-カルニチンとアシルカルニチンの比は正常値は逆転しており、これもまたミトコンドリアでの脂肪酸利用を障害している可能性がある。過剰な投与はこの逆転をさらに悪化させる可能性が考えられる、また透析患者の心状態や筋症状が透析時、透析後の時間帯に悪化することはしばしば経験する。そこで透析前に500mgと、投与日を限定し、これまでの報告より総量では少ない投与方法での投与を行ったが、透析時の不整脈を始めとする諸症状に有効であり問題となる副作用も無くk、この投与方法は有益であろうと考える。

中国腎不全研究会誌 12 : 265-267, 2003.