ペインクリニックでは内服などのお薬を用いた治療、理学療法による治療、カウンセリングなどによる治療の他に『ブロック』という特殊な治療もよく効く治療法として行われます。

ブロック注射

ペインクリニック独特の治療法である『ブロック』についてその種類と注意点などについてご説明します。

★ トリガーポイント注射

頭痛、肩こり、背中や腰の痛みが有る場合しばしば押さえると響く痛みが有る場所、『圧痛点=トリガーポイント』が有ります。ここに局所麻酔剤、あるいは局所麻酔剤と少量の炎症を抑えるお薬(副腎皮質ステロイド)などを注射するのがトリガーポイント注射です。痛みを楽にするのにとてもよく効く方法で、数回のトリガーポイント注射で長年苦しんできた痛みがすっかり取れてしまうという事もしばしば経験します。

トリガーポイント注射は血が止まりにくくなるお薬を飲んでおられる場合などには行えない場合もあります。また局所麻酔剤に対するアレルギーの経験の有る方にも行えません。注射の後は暫く注射の部位を圧迫して止血する必要があり、またふらつきなどが起きる事がありますので注射の後、15分程度の安静をお願いします。

注射の場所によって神経の直ぐ近くに薬が入った場合は神経ブロックとなり暫く痺れ(麻痺)が起きることがあります。また脳へ行く血管に薬が入った場合など、一過性に意識が遠のくことがごく希にあります。その他頻度は低いですが、血腫、気胸、血胸、臓器穿刺などの合併症が起きる危険性もあります。注射の後に異常が起きた場合には直ちに治療を受けた施設へ連絡して指示を仰いでください。

★ 星状神経節ブロック

首の下(胸に近い方)気管の両脇、頸椎(首の骨)の横突起(横に飛び出している骨の突起部分)の前に『星状神経節』という自律神経(交感神経)の集まったところがあります。ここに低濃度の局所麻酔剤を注射するのが星状神経節ブロックです。交感神経の異常な興奮によって起こっている痛みや血流の低下に対してよく効くだけでなく、注射した側の血流が全体に良くないり自律神経のバランスがリセットされるため肩や首、顔の痛み、顔面神経麻痺や上半身の帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛などの治療にも使用されます。

星状神経ブロックの効果として注射をした側の手や顔が温かくなり、一時的に瞳孔が小さくなる、瞼が垂れる、発汗が止まるなどの自律神経のブロックによる作用(ホルネル徴候)が現れます(注:その程度は様々です)。また注射をする部位のすぐ近くを反回神経という神経が走っているため同時のこの神経もブロックされる事があります。反回神経がブロックされるとブロックされた側の声帯が一時的に動かなくなり、症状としては声がかすれることになります。注射の後、声がかすれたら声が元に戻るまで水分を飲んだり食事をする事は避けてください。声帯がきちんと閉じないため食べ物や飲み物が気管の中に入ってしまう危険性があります。また星状神経節ブロックで声帯の麻痺が起きる危険性が有ることから両側同時の星状神経節ブロックは声帯が麻痺して呼吸ができなくなる危険性があり行いません。また元々声帯の麻痺が有る場合も避けるのが普通です。その他の星状神経節ブロックによる合併症(副作用)には局所麻酔剤中毒、アレルギー、頚部クモ膜下ブロック、頚部硬膜外ブロック、気胸などが知られていますが何れも頻度は低いと報告されています。またブロック時に頚部の細い血管を傷つけ暫く時間がたってから血腫が出来て気管が圧迫され呼吸が出来なくなる事があり、その報告頻度は日本全国で年間1~2例です。ブロック後に首が腫れる、息がしにくいなどの症状が出たら直ちに治療を受けた医療機関か救急救命の可能な医療機関を受診してください。適切に治療がされないと命に関わる危険があります。

★ 硬膜外ブロック

背中の左右の中央、骨の奥に「脊髄」という中枢神経系の一部が骨の枠で囲まれて有ります。首から下の身体の神経の殆どはこの『脊髄』を経由して『脳』に繋がっています。脊髄と身体の各場所を繋ぐ神経が脊髄神経です。この脊髄は脊髄液という体液に漬かってますが、この脊髄液を入れている袋は、さらにその外側に硬膜という膜で囲まれています。この硬膜という膜の直ぐ外にお薬を注射で送り届け脊髄から出ていく脊髄神経へ薬を効かせる事が出来ます。局所麻酔剤というお薬をここに届ける注射が『硬膜外ブロック』です。注射の場所とお薬の量により薬の効く脊髄神経をある程度選ぶ事が出来ます。脊髄神経に局所麻酔剤が効くとその神経の興奮が抑えられ刺激(痛みなど)を伝えなくなります。また交感神経という血管を収縮させる神経の興奮も抑えられるため血の流れが良くなります。持続的に出ていた痛みの刺激をストップさせ、血流を良くすることで『痛みの悪循環』を断ち痛みが楽になり、場合によっては治ってしまう事もあります。

硬膜外ブロック時に使うお薬に炎症・腫れを抑えるお薬を混ぜて局所麻酔剤と同時に神経にお薬を届ける場合もあります。この方法は硬膜外に近い場所で神経が腫れ、それによって神経が刺激を受けて痛みが起きていると考えられる時に行います。

神経ブロックがおきるとブロックされた神経の分布している場所の感覚が鈍くなり、力も入りにくくなり、また血流が良くなるため温かくなる場合があります。このためブロック後は1時間程度ベッドの上で安静にしていただき、その後、運動麻痺や血圧などに異常が無いことを確認してから帰宅していただきます。ブロック時に血圧が急激に下がる危険性があるため必要に応じ自動血圧計などによる血圧測定に加え点滴、酸素投与などが必要になる場合があります。

硬膜外ブロックは骨の奥、深いところの注射で、直ぐ近くに『脊髄』という大変大切なものがあるためとても慎重に行わなければなりません。神経ブロックには専用の注射針を使いますが注射ですので非常に小さな血管に傷かつき多少の出血は避けられません。普通の方ですとこの様な出血は間もなく身体の止血機構によって自然に止まり問題にならないのですが、普段飲んでおられるお薬、病気などのため血が止まりにくい方の場合、脊髄の直ぐ近くに血の塊(血腫)が出来てしまう事があり、場合によっては緊急で血腫を取り除く手術が脊髄麻痺を残さないために必要になる事が考えられます。また免疫力の弱い方などの場合皮膚の奥に巣くっている細菌が注射の針によって硬膜外へと運ばれ硬膜外感染や髄膜炎を起す可能性もあります。この様な感染の危険を避けるため注射した跡は清潔に保って頂き注射の当日は入浴や汗をかくような運動などは避けてください。

この他、硬膜外ブロックの合併症として注射針が深く入りすぎて脊髄を傷つける(脊髄損傷)、また硬膜とその内側の膜に穴が開いて髄液が漏れだし頭痛などがおきるクモ膜穿刺、元々硬膜外の外側と髄液の有る部分に交通が有る場合や先述のクモ膜穿刺が起きているのに気づかず局所麻酔剤が髄液に直接注入されて予想外の広範囲に神経ブロックがおきる危険性、血管内に局所麻酔剤が注入され局所麻酔剤中毒が起きる危険性などがあります。

★ 椎間関節ブロック

背中の中央に首から尾骨にかけてある脊椎は多くの骨が繋がっています。それらの骨の左右後方にあり上下の背骨(椎弓)を繋いでいる関節が『椎間関節』です。背部の痛みの原因の一つにこの椎間関節からの痛みがあります。またその他の様々な原因で起きている首、背、腰部の痛みの悪循環に椎間関節の痛みによる関節の動きの悪さが関わっている場合も多くあります。これらの診断のために椎間関節ブロックが必要になります。椎間関節が原因になっている急性の腰痛などはこの局所麻酔剤と炎症を抑えるお薬を用いた1回のブロックで劇的に痛みが取れることもあります。

このブロックは少し長い針を用い、一般的にレントゲンの透視を用いて行われ、造影剤も使用されます。類似した手技で行い、また同時行われる事も多いブロックに後枝内側枝のブロックがあります。これは脊椎そのものから生じている痛みなどに有効です。

★ 神経根ブロック

脊髄から出てきた脊髄神経を脊髄の直ぐ近くの神経根に注射をするのが神経根ブロックです。椎間関節ブロックと同様にレントゲン透視で造影剤を使用して観察しながらブロックするのが一般的です。どの神経が痛みの元になっているのかを診断し、またその神経に直接薬を届けて治療する事を目的にします。

★ 顔の神経ブロック

顔の痛みに関係している神経は三叉神経という神経で、主に眼窩上神経、上顎神経、下顎神経に分れます。三叉神経痛の診断と治療のためこの神経をブロックする治療があります。深い部分の神経ブロックではレントゲン透視の併用が必要となります。局所麻酔剤だけでは効果の持続が不十分な場合アルコールなどの神経破壊剤や高周波を用いた高周波熱凝固などによるブロックも行われます。

★ 腕神経叢ブロック、頚神経ブロック

頸椎、頚髄、頚髄神経などによる痛みの診断と治療のために首の脇から頚髄から出で腕に行く脊髄神経の束、腕神経叢や個々の頚髄の神経(頚神経)をブロックする方法があります。正確な場所にお薬を届けるため超音波エコー診断装置を併用してブロックを行う場合もあります。

うえひら内科・ペインクリニック © Atsushi Uehira