高血圧はナゼ恐い?

血圧が高いと何故いけないのでしょうか? 血圧が200mmHgを超えて高くなると頭痛がしたりフワフワとしたような変な感じがしたりとかいった症状が出ることがあります。 非常に血圧が高い場合は脳出血など、命に関わる状態になる危険性があるので急いで治療をしなければなりません。また脳梗塞などの病気の結果血圧が異常に上がっている場合も有るので急いできちんと診断、治療を受けなければならないのは理解しやすいと思います。

一方でが「高血圧症」と言われる血圧、つまり上が140mmHg、下が90mmHg以上になっていても特に自覚的な症状は何も無いことが殆どです。ではナゼ症状も無いのに血圧を下げなければならないのでしょう?

それは高い血圧が続くと全身の血管や『脳』、『心臓』、『腎臓』などの命に関わるところや『眼』などに少しずつ悪いことが起きてきて、それらの症状が出てしまったときにはもう取り返しが付かない事になってしまうからです。そうなってしまってから血圧の治療をしても駄目になってしまったところはもう良くなることは無いのです。つまり症状が出ないようにきちんと血圧を良い状態に保つことが必要なのです。

高血圧で傷つく臓器:血管

高い血圧にさらされ続ける臓器、それが血管です。高血圧により太い血管から末梢の細い血管にいたるまで様々な血管が障害を受けます。ここでは直接血管におきる病気をお示しします。

大動脈瘤
心臓から出て胸からお腹にかけて走るもっとも太い動脈、それが「大動脈」です。突然ですか風船を吹いたことはありますね? 風船の吹き始めはとても硬くて中々膨らみません。ところがある程度風船が膨らみ大きくなると軽く息を吹き込んだだけでスーっと風船が大きく膨らむことを経験しておられると思います。同じ事が血管にもおこります。高い圧力がかかって傷んだ血管が次第に直径が大きくなり膨らんでくるのです。そしてある程度まで膨らむとあとは一気に膨らんで大動脈が裂けたり破裂したりする事があります。これが解離性大動脈瘤、大動脈破裂という直ちに命の危険を伴う大変な病気です。
閉塞性動脈硬化症
高い血圧で血管が傷むと血管の周囲の組織が次第に硬くなり血管そのもの内径も細くなってきて血液が十分に流れなくなります。特に下半身の動脈でこの様な変化が進みやすく、大動脈から別れて両足に行く血管が動脈硬化によって狭くなり、あるいは詰まってしまうとほんの僅かな距離を歩いただけで足が痛くなり休まなければならなくなります。またこれを放置すると足に血液が行かないために足が黒く変色し腐ってくるいわゆる壊死という状態になります。こうなってしまえばもう壊死に陥った所を手術で切って落とすしかなくなります。この病気では絶対に禁煙が必要です。お薬や手術などによって血管を広げたり新しく血管を繋ぎ治す治療が行われます。また自分の身体から取り出した細胞を注射で移植する特殊な治療が有効な場合があります。
網膜の血管病変
眼底の血管(網膜の血管)にも高血圧で動脈硬化などの変化が起き、その程度を眼底鏡で直接調べることが出来ます。高血圧などによる網膜の血管の障害は網膜(中心)動脈閉塞症、網膜(中心)静脈閉塞症などから失明を引き起こすことがあります。急に物が見えにくくなる(部分的に暗くなる、明るさしか分からなくなる、見えなくなる)などの症状が出たら直ぐに眼科などを受診してください。急いで治療すれば視力が回復する事があります(鳥取大学在職中に眼科と共同研究で眼科的な治療に加えて神経ブロックと高圧酸素療法により視力の回復が得られる事を報告しました)。

高血圧で傷つく臓器:心臓

高血圧により心臓は二つの原因により傷つきます。一つは高い圧力で血液を送り出し続けることによって起きる障害です。これにより心臓が肥大し、ついには心不全を起してしまいます。もう一つは心臓を養う血管、冠状動脈が傷ついたり動脈硬化を起すことによっておきる虚血性心疾患です。

心肥大/心不全
高い圧力で血液を送り出すために心臓の筋肉が分厚くなり心臓自体も傷み次第に心不全になってしまいます。また心臓が大きくなる事により心臓の弁膜に漏れ(逆流)が出来てさらに心不全を悪化させたり、心房という心臓のリズムを生む所が傷んで心房細動などの不整脈を引き起こしさらに心臓の効率が悪くなるという悪循環に陥ります。また心臓の筋肉が分厚くなるとその間を通って心臓自体に栄養を送っている血管がうまく働かなくなり心筋虚血、心筋梗塞までも起してしまう危険性が非常に高くなります。
虚血性心疾患(狭心症/心筋梗塞)
高血圧により心臓を養う血管(冠状動脈)も傷つき、あるいは動脈硬化が起こります。これによって心臓に酸素が十分届かなくなる病気が虚血性心疾患です。冠状動脈が狭くなり興奮したり運動したりするなどよって心臓の仕事量が増え心臓が必要とする酸素の量が増えてしまった時に冠状動脈からそれに見合うだけの血液が送り届ける事が出来なくなり心臓が酸素が足らなくなって苦しい状態、それが狭心症です。また冠状動脈が詰まってしまい酸素が足らなくなり心臓の筋肉が動かなくなりやがて死んでしまうのが心筋梗塞です。心筋梗塞を生き延びても心筋梗塞を起した心臓は動きが悪くなってしまいいずれ心不全を引き起こしてしまうことがあります。

高血圧で傷つく臓器:脳

脳は言わずと知れた人間の意識や記憶、運動を司る最も大切な臓器です。脳も高血圧により様々の障害を受けます。

高血圧脳症
高血圧脳症は、血圧が急に上がるったために脳の腫れ(浮腫)が生じそれによって頭痛、吐き気、嘔吐、視力障害、意識障害、けいれんなどの症状が起きた状態で、すぐに治療が必要な状態です。脳に出血や梗塞などが起きていない事も確認する必要があります。血圧を適切に下げ、また薬によって脳の腫れを取る治療も行われます。
脳出血(脳内出血)
高い血圧にさらされて脆くなった血管から出血を起したのが脳出血です。喫煙、糖尿病などの動脈硬化の悪化因子、ストレスなどが危険因子として知られています。頭痛や意識障害を来すことが多く出血した部位により様々な症状がでます。致死率は高いが手術などによる治療が可能なこともあり専門医療機関でに治療が直ちに必要となります。
脳梗塞
動脈硬化により傷んだ血管の内腔が詰まったり、頸動脈の壁が動脈硬化で傷んだ部分から出来た血のかたまりや心房細動で出来た血のかたまり(血栓)が脳の血管を塞いだりすることによって起きます。傷害された部位によって麻痺や感覚障害、意識障害など様々の症状がでます。直ちに専門医療機関での診断と治療が必要です。
脳動脈瘤
脳内の動脈に出来た血管の瘤、風船のような膨らみが脳動脈瘤です。高血圧により大きくなりまた破裂する危険性が高まります。破裂を起した場合血圧をまず適切に下げ、手術が可能であれば緊急手術になりますが大きな障害を残したり救命が困難な場合も多い病気です。脳ドックなどで脳動脈瘤が見つかった方は特に厳重に血圧の管理をした方が良いでしょう。

高血圧で傷つく臓器:腎臓

腎臓はお腹の後側、両脇に一つずつある尿を作る大切な臓器です。腎臓は非常に大量の血液を濾過して尿を作り出します。一日に作られる尿(原尿)は140~150リットル! それをさらに濃縮し、必要な水分や栄養素を再吸収して実際に身体から出ていく尿が作られます。つまりはその材料となる血液の量も非常に大量。一日1400リットルから1800リットルもの血液が左右合わせて300g程度の腎臓を流れるのです。それほど血流と血管が豊富な臓器であり血圧の影響を受けやすく、また水分とミネラルの代謝、血圧とも密接に結びついています。

高血圧にさらされると腎臓の糸球体という尿を作り出す所が障害され糸球体の数がだんだん少なくなりそれに伴い腎臓の機能も悪化していきます。また糸球体が高血圧にさらされるレニンというホルモンが分泌されそれによって血圧がさらに上昇するという悪循環を引き起こします。高血圧による腎臓の障害が進行するとついには人工透析が必要になることもあります。

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