糖尿病って?

糖尿病は血液の中のブドウ糖の濃さ、つまり血糖値が異常に高くなっている病気です。

少し詳しく
『ブドウ糖』というのは人間の身体の中で働く最も重要な栄養素です。食事に含まれる炭水化物(デンプンや砂糖など)は消化・吸収され身体の中ではブドウ糖となって血液に乗って運ばれ、運ばれた先の細胞の中で酸素を使って生きていくのに必要なエネルギーになるのです。このブドウ糖が細胞の中に取り込まれる時に必要なホルモン、それが『インスリン』です。うまり血液の中のブドウ糖の濃度=『血糖』は食事によって摂られ、消化吸収されたた炭水化物の量、インスリンの量、身体で消費されるエネルギーの量によって決まってきます。
空腹時の血糖、食後の血糖にそれぞれ基準となる価があり、それより血糖が高いと糖尿病と診断されます。また日常的に血糖が高いと血液の中の「ヘモグロビン」という酸素を運搬する赤いタンパク質(血色素)が糖で焼けて変性しグリコヘモグロビンあるいはヘモグロビンA1Cと呼ばれるものになります。そこでこの変性したヘモグロビンの割合を測る事によっても糖尿病が診断されます。この方法は過去数ヶ月間の血糖の価を反映しているためより意義が高いと考えられヘモグロビンA1Cの割合が診断の基準、糖尿病の治療の効果の判断に使われるようになってきています。

● 糖尿病の原因

一般的に最も多い糖尿病『2型糖尿病』の直接の原因は膵臓から出る『インスリン』というホルモンの不足した状態と『インスリン感受性の低下』という状態、インスリンがきちんと効きにくい状態です。これらは遺伝に加え食べ過ぎ、肥満、運動不足などの生活習慣がその大元だと考えられています。

少し詳しく
2型糖尿病と診断されるおよそ10年前から食後過血糖という状態が起きている事がわかってきました。早食い、過食、特に糖分の多い飲み物などを大量に摂るなどの習慣があると食事の後、急激にブドウ糖が身体に吸収されます。からだはそれを検知すると膵臓からインスリンを分泌して血糖が高くなりすぎるのを押さえようとします。このとき膵臓には随分な負担がかかります。特に炭水化物でも砂糖やブドウ糖を大量に含んだ物をとると消化する必要が無いので極めて急速に血糖が上がり、それに追いつこうとインスリンも大量に分泌され、かえって高血糖に続いて低血糖がおこる事すらあります。このような食生活や運動不足が続くと膵臓が次第に疲弊してインスリンを作り出す能力が無くなってきてやがて糖尿病になると考えられています。また『肥満』になるとからだの脂肪細胞に脂肪が大量にたまり本来脂肪細胞が分泌している『アディポネクチン』というホルモンが分泌できなくなってしまいます。このアディポネクチンはインスリン感受性を高める働きがあるのでその不足により糖尿病が悪化するのです。またアディポネクチンは動脈硬化や心肥大を押さえるなどの身体に良い働きを担っているホルモンでいわゆるメタボリックシンドロームの鍵となっていると理解されています。
2型糖尿病意外に1型糖尿病というのもあります。これは比較的若い年齢で膵臓のインスリンを作る細胞に対する自分自身の免疫反応(自己免疫反応)がおこり大切なインスリン分泌細胞が死んでしまうことによっておこり、インスリンの注射を続ける必要があります。
このほかにもある種の薬剤、ホルモンの異常を来す病気、妊娠などが原因となる糖尿病があります。

● 糖尿病の治療

食事療法と運動療法
糖尿病の前段階(まだ糖尿病と診断はされないが食後の高血糖がみられる状態)、2型糖尿病の初期での治療の主体は『食事療法』と『運動療法』です。またより進行した糖尿病でも食事療法と運動療法はお薬を使った治療の基礎治療として欠かすことはできません。徐々に一日の歩数を伸ばし最低でも一万歩、できれば二万歩が目標になります。歩くだけでインスリンが不要になる、あるいはインスリンが減量できる方も少なくありません。食事制限だけで体重を減らすと筋肉が減ってしまい体が衰えてしまいます、是非筋肉量を維持するための運動も併用しましょう。筋肉量を維持し増やすにはいわゆる「筋トレ」とタンパク質を摂ることが有効です、無理のない範囲で頑張りましょう。

禁煙
煙草は血管を収縮させるだけでなく、さらに酸化ストレスにより動脈硬化を進行させ血管を傷め、様々な糖尿病の合併症の悪化を招きます。まずは禁煙。禁煙するだけで糖尿病によって引き起こされる心筋梗塞などの命に関わる合併症の頻度をぐんと減らす事ができます。

血圧の管理
糖尿病がある方は合併症の進行を防ぐため、血圧の管理を糖尿病が無い方より一層厳重にする必要があります。糖尿病がある方の血圧管理目標値は125/75未満(過程血圧)です(JSH2009)。

インスリン療法
経口の糖尿病剤を用いても膵臓からのインスリンが不足している場合、意識障害を伴った著しい高血糖やケトアシドーシスと呼ばれる危険な状態、手術や重症の感染症の場合、口から薬が飲めない場合はインスリンの注射を使う必要があります。インスリンの注射は在宅でも行う事ができます。最近は操作の簡単なキットが使えるようになりかなりご高齢の方でもご自分で、あるいはご家族の手伝いによってインスリン療法をしておられます。自己インスリンの注射に使われる針は極めて細く注射による痛みも殆どありません。実際に始められた方から「こんなに簡単で痛くないならもっと早くからしておけば良かった」とのお声を聞くことも多いです。
糖尿病があまり進行していない方、経口糖尿病剤がまだ有効な方にもインスリン注射をお勧めする事があります。これはインスリン注射を使いインスリンの不足を補うことで薬で膵臓の細胞に無理をさせず膵臓のインスリンを作る細胞を休ませ、機能を回復させることを期待するからです。運動療法、食事療法などと上手くかみ合うと膵臓の機能が回復し再びインスリンが不要になる事もあります。

経口糖尿病薬
ブドウ糖吸収阻害薬
ベイスンなどのα-グルコシダーゼ阻害薬は食事の前に服用するタイプのお薬です。この薬は消化酵素(α-グルコシダーゼ)の働きを抑えデンプンなどの炭水化物の吸収を遅らせて食後の急激な血糖の上昇を穏やかにしてくれる働きがあります。このためまだ糖尿病と診断はされないが食後の血糖の上昇がある状態(前糖尿病状態)で糖尿病の発症予防に処方する事が最近保険診療で認められるようになりました。
このお薬は直接血糖を下げる働きはありませんがこのお薬を使っているとインスリンや他の薬によって起こった低血糖の時に食べ物を食べても血糖がなかなか回復しません。そのため低血糖が起こった場合は消化の必要のない『ブドウ糖』を摂る必要があります。このお薬を薬局で受け取る際に申し出て頂ければ低血糖治療用のブドウ糖も貰えます。
インスリン分泌促進薬
SU剤と呼ばれる比較的長時間インスリン分泌を促進させるお薬とグリニド系と呼ばれる速効型で食事直前に服用するタイプのものがある。いずれも低血糖を起す危険性があり、また透析患者さんなど腎臓が悪い人では効果が持続しやすいため処方には注意を要します。
インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性が問題になるタイプの糖尿病で使用されます。薬の種類によりそれぞれ副作用にも注意が必要です。糖尿病のタイプによっては第一選択薬(最初に使用すべき薬)として推奨されています。中でも「メトホルミン」というお薬は値段も安く、腎臓が悪い人、高齢の人、アルコールを多量に飲む人などを避ければ副作用もなく安全に使えることがわかってきて使いやすくなってきました。
DDP-Ⅳ阻害薬/GLP-1受容体作動薬
新しいタイプの経口糖尿病薬。ブドウ糖依存性に(ブドウ糖が多い状態で)インスリンの分泌を促す『インクレチン』という消化管ホルモンの分解を押さえることにより血糖を低下させるお薬です。低血糖の副作用が出にくく世界的にも幅広く使われています。またインクレチンと同じ作用を持ったお薬(GLP-1受容体作動薬)があり食欲も抑えてくれるなどのメリットのあるお薬です。GLP-1受容体作動薬は以前は注射剤しかありませんでしたが新しく飲み薬も開発され2021年2月から使えるようになり今後が期待されています。
SGLT2阻害薬
新しいタイプの経口糖尿病薬。血液の中のブドウ糖の一部はは一旦尿の中に出ていき腎臓の中で再度吸収され、本来大事な栄養素であるブドウ糖を捨ててしまわないような仕組みが備わっています。この「ブドウ糖の再吸収」を抑えてブドウ糖を体外に捨ててしまう事により糖尿病を治療するお薬です。運動療法、食事療法をきちんとすることで治療の効果が期待できます。お薬の効果で尿に糖が出ていくときに水分も一緒に出ていくため脱水には十分注意して水分をきちんと摂る必要があります。また、体から水分の排出をうながし、水分が過剰となっている心不全や腎臓病にに対しても有利な薬であると適応も広がり期待されています。
ミトコンドリアをターゲットとした薬
2021年に登場した新しいタイプの経口糖尿病薬。ブドウ糖は最終的に「ミトコンドリア」という細胞の中にある工場ででエネルギーに転換されます。糖尿病の人ではこの「ミトコンドリア」の働きが低下しているとも言われています。このお薬はミトコンドリアにに働きかけて膵臓のインスリン分泌を促し、筋肉や肝臓でブドウ糖の取り込みなどを促すという二つの機序で糖尿病を改善してくれるとされています。
合剤
お薬の数が多いと飲み忘れたり、飲むことが負担になりきちんと服用できない事があります。そのため便利にして飲み忘れを防ぎ、治療の効果を高めるために異なった作用機序のお薬を一剤にまとめた「合剤」が何種類も開発され処方できるようになっています。薬の数が多くて困っているときは相談してみるのもよいでしょう。

うえひら内科・ペインクリニック © Atsushi Uehira